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戦後の住宅建設技術の進歩は大きく、各種建設資材、建設方法、住宅設備等の分野では住宅需要の急成長に伴い驚異的なものがありました。それらの多くは、いわば住宅の目に見える部分に注力されたものでした。
しかし、一方では「住みごこちへの探究」も行われていました。どんなに新しい建設資材を用いても、住宅本来の機能である住みごこちがそれまでのと同じようであれば、本質的には住宅の技術的進歩とは云い難いものでありました。
「住みごこちへの探究」の核心的部分は、室内温熱環境のあり方へと向いて行きました。
室内温熱環境は、いわば住宅の目に見えない分野の事ですが、住宅を住まいたるものにする大きな役割を担っていました。
それは、時として、快適性、アメニティー、健康等の表現として重点を多少ずらしつつ住宅の質を大きく左右する要素として重視される様になって来ました。その「住みごこちへの探究」が一般的に具現化し始めたのが、皮肉にも1973年に起きた石油危機から発した断熱材の利用の一般化でありました。そして、断熱材の利用は、単に省エネルギー性の確保の問題に止まらず、住宅を構成する様々な分野へ問題を投げかけたのでした。この断熱材の利用を大きな契機として、目に見える部分だけでなく見えない部分も少なからず見直しを迫られたのでした。 |
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住宅へ断熱材が使用され始めて、住空間が直ちに問題も無く省エネルギーに、かつ快適になったかと云うと、そうではありませんでした。当時までは、ビル病として知られていたカビ、ダニの発生によるアレルギー問題等が本格的に生活の場に持ち込まれる様になったのです。建物の西洋化に伴い、丁寧な工事であればある程かえって問題が起こりやすい事は既に知られていた様であります。それが一般化してきたのです。この原因は無防備な気密化にあったと云われています。そして、さらに建築物としての耐久性にも大きな問題を引き起こしました。それは断熱材を使うと家が数年で腐り始めると云う現象です。「家が腐る」と云う問題は、現実には小屋裏、壁内、床下等の躯体内での結露が原因で、吸水した断熱材、木材が腐朽菌により損傷を受けてしまい、建物の劣化が著しく早められるものです。室内表面結露によるカビやダニの繁殖とその危害と共に、住宅の結露の問題は、省エネルギーや快適性の問題以前の重大問題として浮き上がってきたのでした。
また、居住空間でも、同じ家の内での大きな温度差の発生、空調機や換気不足による空気の汚染等々、「住みごこちへの探究」の課題は山積みの状況でありました。 この様な事態に対し様々な研究や実践が行われてきた結果、現在の住宅は、解決の手段を持ちうる事が出来ると云っても良いでしょう。 ところが現実には、石油危機から30年経った現在においても、未だ多くの新築される住宅が、この様な住宅の基本的諸問題をお座なりにされたままになっているのも事実でありましょう。ただ建てる事だけが容易になった建設資材を用いて、同じ問題の再生産が平然と行われている事は、住む側にとっては世代に渡る大問題であります。 |
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断熱材の利用とそれに伴う気密性の向上がもたらす、室内や躯体の諸問題は、断熱・気密の先進地域である北欧米の住宅を参考にしつつ解決の糸口が探られました。当然国内においても多くの研究が成されました。その一つの成果として、高断熱・高気密な住宅が、北海道において1985年前後から建設されるようになり、「高断熱・高気密・計画換気」の基本セットを概念として、防湿、暖房、配管等に十分配慮を行い、かつそれまでの住宅では難しかった吹き抜けや大きな連続した空間のデザインの住宅が注目され始めました。むろん高断熱・高気密な家が普及するには、それに相応した換気設備やレンジ・フード、空調機等が安価に国産化されるまで待たなければなりませんでしたが、不注意に断熱化・気密化してしまう事により生じる問題は、輸入品に頼りつつも一つの解決の方法を得たと云えるでしょう。

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この高断熱・高気密な家は、断熱の方法により大きく二つに分類されます。一つは外断熱(外張)工法であり、一つは内断熱(充填断熱)工法です。外断熱工法は元々、レンガやコンクリート等の比熱の大きな素材を構造躯体にする建物に向く断熱工法として1970年頃には北ヨーロッパで用いられていた工法です。一方、内断熱工法も、防湿層と断熱材の納まり方に大きな注意を払いつつ高断熱・高気密な住宅を実現して行きました。木造在来工法の内断熱・高気密化が進み始めた一方で、枠組壁工法の決定版としてカナダのR-2000と銘打った工法が1980年代終わり頃に日本に紹介されました。構造には2”×6”材を用いて、密度の高い繊維系断熱材をギッシリと詰め込んだものでした。繊維系断熱材を用いた内断熱工法は、防湿を十分に行わぬ限り、また工事や完成後の雨水対策を十分に行わぬ限りその吸水性により木材にとっては、大変危険なものです。断熱材が厚くなればなる程、その危険性は増大すると云われています。多雨多湿な日本(特に本州以南)において、木材の劣化を軽減するには、十分な注意を必要とする工法と考えざるを得ないのではないでしょうか。 |
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2000年に施行された住宅の品質確保の促進等に関する法律(品確法)は、住宅の断熱方法を見直させる一つの重要な契機となりました。そしてつい昨日まで繊維系断熱材を用いて充分な工法と宣伝していたハウス・メーカー等が突然とかつ平然と外断熱工法の優位性を唱える様になったのです。
その理由は、 (1)内断熱工法は、防湿の工事と工事中及び完成後の雨水・雨漏対策が十分では無い限り木材を腐朽させ、瑕疵保証の問題を大きくする可能性がある。 (2)また、室内温熱環境的に見ても、熱橋が多くかつ建物の熱容量を利用しにくい内断熱では制約が多い。 (3)外断熱工法は資材は高価になるが、完全に近い施工を考えると、「住みごこち」と資産の保全をと云うこれからの住宅の基本要件を満足する工法と評価し得る。 以上の事などが考えられます。 すなわち内断熱工法では、高断熱・高気密な住宅が解決したと思われていた基本的諸問題が実は安心して対処し得る訳にはいかなかったと云う事でしょうか。既に1984年に鐘淵化学工業の開発した、単純ではあるが完全な外断熱工法にやっと世の中が注目し始めたかに見えました。
しかし、残念ながら現実には外断熱といいつつも壁のみ外断熱工法と云うちぐはぐな工法が増えつつあるのが実態であります。 |
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